2024/11/23 09:58 |
[PR] |
2014/01/10 04:10 |
EUPHOLIA/伝導書翰 |
人類の契機となった大災害「アトミック・クライシス」から90年年近く経とうとしていた2104年、「スリランカ・パンデミック」が人類を襲った。このウィルス・パニックは、ヒュウ・諏訪・バーン=ブレイク博士が「カドゥケウス・ワクチン」を開発したことによって収束に向かい、当初予測されていた犠牲者数を遥かに下回る被害で食い止められた。
だが、諏訪博士の背後には秘密結社「アブラクサス」―とうの昔に滅びたと思われたグノーシス主義オフィス派の現在の姿―が存在していた。
アブラクサスの究極の目的は智恵による「全人類の一斉救済」―不完全なこの宇宙を捨て、母たるソフィアと至高の原父の住まうプレロマ界への回帰、つまりは全人類の死――であった。
人類に齎された智恵たる科学を絶対視する姿勢は、所謂人倫に外れた研究さえ奨励していた。軍事力のための大量殺戮兵器開発、自身の危険な研究の成果を挙げる環境を求める者、信仰の有無に関わらずアブラクサスはそうした者も受け入れ拡大してゆき、相互利用する形で歴史の裏で暗躍していたのだ。
ヒューもアブラクサスのそうした科学の産物、成果の一つであった。表向きは不妊治療を受けた夫婦の間に出来た子どもであったが、実はアブラクサスによって人工的に生命を与えられた存在であった。
ヒュウの母、諏訪タマキは、アブラクサスに洗脳された科学者だった。ヒューの父、デイモン・リンゼイ・バーン=ブレイクは彼女を愛していたが、彼女は夫を種馬としか見做さず、組織の預言通り産まれた息子ヒューを神と崇めていた。だが、彼女は実験事故で他界、ヒュウは事故に巻き込まれながらも奇跡的に生還したが、その代わりその事故の記憶を一切なくした
洗脳された妻とは死別し、アブラクサスとは全く関係のない女性、野場マヒロと結婚し、次男ショウ・野場・バーン=ブレイクを儲けた。
母の死以来、ぎこちなかった父と子は、後妻とその子どもの存在により支えられていた。二人にとって、野場マヒロとショウは掛け替えのない存在であった。
義母は優しい人で、実の子のように彼に接してくれた。義母弟は複雑な感情を兄に持っていたが、ヒュウ自身はそんな弟を憎く思ったことなど一度もなく、実の弟同然、不器用な彼なりに愛していた。
彼を神と崇める異常な集団に絶望しながらも、アブラクサスによって生み出され、アブラクサスによって母を失ったヒュウは、実母の死の真相と記憶を取り戻すためにアブラクサスに表向き組しているふりをしていた。
ヒューは成長とともに豊かな才能の片鱗を示すに至り、飛び級で大学に入ると量子物理学とバイオインフォマティクス(生物情報科学)を専攻した。そして、首席で卒業するとそのまま大学院に進学し、博士号を取得しただけでなく次々と素晴らしい成果を上げ続けた。結果として若くして天才の名をほしいままにすることになるのだが、それもアブラクサスの筋書き通りのことであった。
そんなある日、「スリランカ・パンデミック」は起こった。しかしヒュウは知っていた。一連の出来事は全てアブラクサスによる茶番であることを。そして自分がこの災害の「救世主」に仕立て上げられることを。世間よりアブラクサスの存在を隠ぺいするため、計画はある程度の犠牲者を必要とした。
驚異的な異常代謝による身体能力の爆発的飛躍とともに、ヒトに対する無差別な殺意衝動をも発症させる、まさに「殺人ウィルス」。義母は、殺意から逃れるために自ら愛する夫の手にかかり、父はその妻を追って自殺を遂げた。アブラクサスから完全に抜け出せず、ヒュウに重い運命を背負わせてしまったことを詫びながら。
そして、我が子の誕生を待ち望んでいた親友は、感染しながらも医者として最前線で戦い、壮絶な最期を遂げた。 ショウの恋人も感染した。ヒュウは、弟夫婦を父と義母の二の舞にしてはならないと、義妹を救うためにアブラクサスのシナリオを一存で繰り上げ、ワクチンを開発し彼女に投与した。彼女は一命を取り留めた。その際に分かったことだったが、彼女は妊娠しており、結果として彼は母子の命を救ったのだった。ショウがヒュウに対していだいていた蟠りもこれを機に溶解することになった。だが、罪の意識は常にヒュウを苛んだ。
やがて、ショウに子どもが生まれた。双子の男子であった。双子は年を跨いで生まれた。次男が生まれたのと同じ日、ヒュウにも娘が生まれた。ヒュウの娘は、彼がアブラクサスに預けた精子より生まれた、ヒュウと同じく人工的に生み出された存在だった。だが、契約上、彼女はアブラクサスに育てられることになっていた。
幸せそうに見えたショウ夫婦ではあったが、ショウは妻の家から結婚を認められていなかった。理由は、妻の父がアブラクサスの存在を知っており、バーン=ブレイク家と関わることを忌み嫌ったためであった。ヒュウはこれ以上家族に迷惑がかかることを厭い、アブラクサスと決別して娘を奪還し、義妹の父とアブラクサスの存在を共に世界に公表し、その罪を追求する決意をした。義妹の父もこの申し出を快く受け入れ、ショウと娘の結婚を承諾した。
その矢先、ショウの妻の父はその家族とともに搭乗した飛行機墜落して他界した。表向きは事故と処理されたが、アブラクサスによる暗殺であった。そして、双子の片割れもアブラクサスによって誘拐された。
そして、一度は死滅したかに思えたL2ウィルスは、有機コンピューターに感染し、全世界に殺人ウィルスをばらまこうとしていた。
最早、一刻の猶予もヒュウにはなかった。彼は組織に挑戦し、娘を奪還することには成功し、組織を機能不能にまで追いやった。が、彼の甥である双子の長男を救うことも、世間にその存在を暴露することも出来ずに命を落としたのだった。
ヒュウの犠牲によって、アブラクサスの影はバーン=ブレイク家から消え去ったように思われた。だがアブラクサスによる援助を失ったバーン=ブレイク家に、残された遺産は微々たるものだった。残されたショウは、誰にも頼らずに男手一つで家族を支えるために仕事で成功しなければいけなかった。そんな状況下の彼に、一連の事件に耐えきれず精神を病んだ妻を支え、行方不明になった息子を捜し、尚且つ二人の子供の面倒をみる余裕はなかった。また、兄、ヒュウの娘ではあってもアブラクサスによって生み出された存在である姪に、家族をばらばらにした組織に対するやり場のない憎悪を向けかけそうになることもしばしばであった。その度に、ショウは自己嫌悪に陥り激しく自分を責めた。彼の疲労困憊を見かねた、ヒュウの恩師であり、またヒュウの親友の父であり恩師でもある砂原マサトシは、母親が蒸発してしまった孫と一緒に愛弟子の娘を引き取ることにした。ヒュウの娘と、彼の親友の息子はこうして共に育つようになる。
だが、諏訪博士の背後には秘密結社「アブラクサス」―とうの昔に滅びたと思われたグノーシス主義オフィス派の現在の姿―が存在していた。
アブラクサスの究極の目的は智恵による「全人類の一斉救済」―不完全なこの宇宙を捨て、母たるソフィアと至高の原父の住まうプレロマ界への回帰、つまりは全人類の死――であった。
人類に齎された智恵たる科学を絶対視する姿勢は、所謂人倫に外れた研究さえ奨励していた。軍事力のための大量殺戮兵器開発、自身の危険な研究の成果を挙げる環境を求める者、信仰の有無に関わらずアブラクサスはそうした者も受け入れ拡大してゆき、相互利用する形で歴史の裏で暗躍していたのだ。
ヒューもアブラクサスのそうした科学の産物、成果の一つであった。表向きは不妊治療を受けた夫婦の間に出来た子どもであったが、実はアブラクサスによって人工的に生命を与えられた存在であった。
ヒュウの母、諏訪タマキは、アブラクサスに洗脳された科学者だった。ヒューの父、デイモン・リンゼイ・バーン=ブレイクは彼女を愛していたが、彼女は夫を種馬としか見做さず、組織の預言通り産まれた息子ヒューを神と崇めていた。だが、彼女は実験事故で他界、ヒュウは事故に巻き込まれながらも奇跡的に生還したが、その代わりその事故の記憶を一切なくした
洗脳された妻とは死別し、アブラクサスとは全く関係のない女性、野場マヒロと結婚し、次男ショウ・野場・バーン=ブレイクを儲けた。
母の死以来、ぎこちなかった父と子は、後妻とその子どもの存在により支えられていた。二人にとって、野場マヒロとショウは掛け替えのない存在であった。
義母は優しい人で、実の子のように彼に接してくれた。義母弟は複雑な感情を兄に持っていたが、ヒュウ自身はそんな弟を憎く思ったことなど一度もなく、実の弟同然、不器用な彼なりに愛していた。
彼を神と崇める異常な集団に絶望しながらも、アブラクサスによって生み出され、アブラクサスによって母を失ったヒュウは、実母の死の真相と記憶を取り戻すためにアブラクサスに表向き組しているふりをしていた。
ヒューは成長とともに豊かな才能の片鱗を示すに至り、飛び級で大学に入ると量子物理学とバイオインフォマティクス(生物情報科学)を専攻した。そして、首席で卒業するとそのまま大学院に進学し、博士号を取得しただけでなく次々と素晴らしい成果を上げ続けた。結果として若くして天才の名をほしいままにすることになるのだが、それもアブラクサスの筋書き通りのことであった。
そんなある日、「スリランカ・パンデミック」は起こった。しかしヒュウは知っていた。一連の出来事は全てアブラクサスによる茶番であることを。そして自分がこの災害の「救世主」に仕立て上げられることを。世間よりアブラクサスの存在を隠ぺいするため、計画はある程度の犠牲者を必要とした。
驚異的な異常代謝による身体能力の爆発的飛躍とともに、ヒトに対する無差別な殺意衝動をも発症させる、まさに「殺人ウィルス」。義母は、殺意から逃れるために自ら愛する夫の手にかかり、父はその妻を追って自殺を遂げた。アブラクサスから完全に抜け出せず、ヒュウに重い運命を背負わせてしまったことを詫びながら。
そして、我が子の誕生を待ち望んでいた親友は、感染しながらも医者として最前線で戦い、壮絶な最期を遂げた。 ショウの恋人も感染した。ヒュウは、弟夫婦を父と義母の二の舞にしてはならないと、義妹を救うためにアブラクサスのシナリオを一存で繰り上げ、ワクチンを開発し彼女に投与した。彼女は一命を取り留めた。その際に分かったことだったが、彼女は妊娠しており、結果として彼は母子の命を救ったのだった。ショウがヒュウに対していだいていた蟠りもこれを機に溶解することになった。だが、罪の意識は常にヒュウを苛んだ。
やがて、ショウに子どもが生まれた。双子の男子であった。双子は年を跨いで生まれた。次男が生まれたのと同じ日、ヒュウにも娘が生まれた。ヒュウの娘は、彼がアブラクサスに預けた精子より生まれた、ヒュウと同じく人工的に生み出された存在だった。だが、契約上、彼女はアブラクサスに育てられることになっていた。
幸せそうに見えたショウ夫婦ではあったが、ショウは妻の家から結婚を認められていなかった。理由は、妻の父がアブラクサスの存在を知っており、バーン=ブレイク家と関わることを忌み嫌ったためであった。ヒュウはこれ以上家族に迷惑がかかることを厭い、アブラクサスと決別して娘を奪還し、義妹の父とアブラクサスの存在を共に世界に公表し、その罪を追求する決意をした。義妹の父もこの申し出を快く受け入れ、ショウと娘の結婚を承諾した。
その矢先、ショウの妻の父はその家族とともに搭乗した飛行機墜落して他界した。表向きは事故と処理されたが、アブラクサスによる暗殺であった。そして、双子の片割れもアブラクサスによって誘拐された。
そして、一度は死滅したかに思えたL2ウィルスは、有機コンピューターに感染し、全世界に殺人ウィルスをばらまこうとしていた。
最早、一刻の猶予もヒュウにはなかった。彼は組織に挑戦し、娘を奪還することには成功し、組織を機能不能にまで追いやった。が、彼の甥である双子の長男を救うことも、世間にその存在を暴露することも出来ずに命を落としたのだった。
ヒュウの犠牲によって、アブラクサスの影はバーン=ブレイク家から消え去ったように思われた。だがアブラクサスによる援助を失ったバーン=ブレイク家に、残された遺産は微々たるものだった。残されたショウは、誰にも頼らずに男手一つで家族を支えるために仕事で成功しなければいけなかった。そんな状況下の彼に、一連の事件に耐えきれず精神を病んだ妻を支え、行方不明になった息子を捜し、尚且つ二人の子供の面倒をみる余裕はなかった。また、兄、ヒュウの娘ではあってもアブラクサスによって生み出された存在である姪に、家族をばらばらにした組織に対するやり場のない憎悪を向けかけそうになることもしばしばであった。その度に、ショウは自己嫌悪に陥り激しく自分を責めた。彼の疲労困憊を見かねた、ヒュウの恩師であり、またヒュウの親友の父であり恩師でもある砂原マサトシは、母親が蒸発してしまった孫と一緒に愛弟子の娘を引き取ることにした。ヒュウの娘と、彼の親友の息子はこうして共に育つようになる。
PR
- トラックバックURLはこちら