"U"LYSSES-Eu編-

　彼女自身は戸籍や身分を証明する社会的措置はされていない。妹のメイから推測するに、戸籍上日本人とされるが、彼女らが生まれたとされる年に、ネパールで大規模な紛争「流星のネパール」が勃発しているため、おそらくはその時に孤児になった子どもたち(メテオ・チルドレン)の一人と目される。人身売買に出されたところ、アブラクサスに買い取られたものと見られる。

　メイはタマキのように、アブラクサスの理想の信者として育った。姉を神に近い存在のようにアブラクサスから言い聞かされ、それを誇りに思っている。姉の役に立つように優秀な遺伝子工学者となる。

　ミコトは組織にばれぬよう、己の能力を行使して、とあるネットワークデバイスを介して、スリランカ・パンデミック辺りからヒューをサポートしていた。ヒューは難局難局で助け舟を出すミコトのことを、親愛と信頼と尊敬を込めて「私の聖霊(My spirit)」と呼んでいた。

　このネットワークデバイスは、ヒュウの祖父であるイングラムが、Lucy時代に開発したものを改良し、かつて高梨レンのためだけに設けた、組織にすら秘匿にしていたプライヴェートデバイスであった。父イングラムの形見の一つとしてデイモンが保管していたノートPCの中に内蔵されていた。デイモンが亡くなったあとの遺品整理をしていたショウがたまたまこのPCを発見し、ヒュウが偶然デバイスを起動させたことが二人の出逢いである。

　このデバイスをミコトが発見したのはこれもまた偶然である。ネットの海を泳いでいたときに拾ったとされる。そこらに転がっている端末が塵芥なら、まるで真珠のような美しさだったと表現している。

　外部の人間と接触したのは娘を救いに来たヒュウが初めてであり(但し、ヒュウもアブラクサスの人間であったので正確ではない)、妹が守った娘・ケイトを彼に託したあと再会を約束するも、自らの命と引き換えに組織のマザーコンピューターを乗っ取ることに成功。自壊プログラムを起動させ、半死状態の妹と共に落命した。

　死の間際に自分の名前が「サベレイ」、妹の名前が「サーンジュ」であることを思い出した。

　独特の死生観や哲学を持っており、過酷な自身の境遇を必ずしも呪ってはいない。前向きというよりは、前も後ろもない、透明な、あるいは清澄な思想とヒューは分析している。感情の起伏がないのではなく、常時静かなる調和を保っている。

　　つかの間ではあったが、ヒュウに初めて恋愛衝動を与えた女性。ヒュウは死の間際に「恋というものも知ることが出来てよかった」と述べている。

　一卵性双生児にも関わらずメイとヘアカラーもスキンカラーも異なっているが、これは度重なる実験のストレスによって色素が失われた結果であり、本来はメイと見分けがつかない容姿であった。